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 もはや完全に巨匠と化しているクリント・イーストウッド監督作。
 イラク戦争で伝説となった、アメリカ海軍の特殊部隊ネイビー・シールズ所属の狙撃手である故クリス・カイルの自叙伝が原作。

 内容はタイトルから想像できる通り戦争映画だが、明暗同居しながら淡々と進む、安心と信頼のいつものイーストウッド。モデルとなったクリス・カイル氏が元軍人に射殺されるという衝撃的な事件もあり、全米で議論沸騰、戦争映画の興行収入記録更新、アカデミー賞総ナメ観測と、ドラがたくさんついた数え役満状態の作品である。

 主演のブラッドリー・クーパーは完璧な役作り。ってかもう本人じゃないすかこれ。流石、自ら映画化権利を取得しただけのことはあり。実際に故人の妻から本人降臨と言われたらしい。
 妻役のシエナ・ミラーは、ブラッドリー・クーパーにかなり引っ張られた感はあるけど、まあ及第点かな。

 善悪の描き方に関しては、比較的フラットではあるけれどスピルバーグだったら挿入しがちなイラク側視点のエピソードなどは殆どなく、どっちかと言えばアメリカからの視点ばかり。このあたり批判の的となっているようではあるが、戦争そのものや、戦争になるプロセスについて描いた映画というよりは、軍人であり父親であるクリス・カイル氏を一人の人間として描いた作品であるので、そこに注目して鑑賞するのがよろしい。

 作中で、いわゆるPTSD(心的外傷後ストレス障害)のシーンや、手足などを失うなど重度の障害を受けて退役した軍人達のその後が描かれるが、あまりに淡々と日常的な一コマとして描かれているので、逆に深刻さが突き刺さる。

 何というか、盛り上げる音楽もなければ、気の利いた台詞もなく、カメラアングルも比較的シンプル、なんだけど、それが逆に強烈に焼き付くのだよね。

 観る人の感性次第で刺さり具合が大きくブレるのがイーストウッド映画のいやらしいところであるが、主人公を英雄化するとか、戦争を正当化するとか、そういう表面的で単純な話ではなくて、むしろ一人の愛国的なアメリカ人が、どのように戦争にのめり込んでいき、そしてどのように心を蝕まれていくのかを淡々と描いた、まさに伝記的であり、ドキュメンタリー的な映画なのである。

 ラスト。クリス・カイル氏が殺されるシーンはなくて、テロップだけです。
 最後にさらっと後日譚をテロップするこのパターン、割とこの監督多いのだけど、これは遺族に小さなお子様がいることを配慮してのものだそう。

 印象的なのはその後に続く映像で、クリス・カイル氏の亡骸を乗せた車列が大通りを走る。沿道や歩道橋から星条旗を振ったり敬礼したりして見送る市民や軍人。実写。

 そして地元の人気フットボールチーム、というかアメリカズ・チームと呼ばれ、アメリカの象徴的なスポーツのなかでさらに象徴的なチームであるダラス・カウボーイズのホームスタジアムであるAT&Tスタジアムでの告別式の映像。これも実写。
 エンドロール。無音。

 故人への追悼と遺族への配慮、人間イーストウッド節が炸裂。泣かせます。実際、完全にネタばれだけど、このラスト観たら、分かっていてもじわっと来るよ。